さくや(@sakuyakonoha77)です。
本格的な木工に欠かせないのが鑿(のみ)。ホームセンターでも販売されているので、見たことがある方も多いと思います。
しかし鑿はDIY初心者にとって扱いが難しいもの。特に刃研ぎが非常に難しく、苦手意識を持つ方も多いのではないでしょうか。
鑿を研ぐことができるのは職人だけと思われがちですが・・そんなことはありません!
適切な砥石と、研ぐための治具(研ぎガイド)を使えば初心者でも鑿を研ぐことができます。
この記事では、研ぎに必要な治具(研ぎガイド)と砥石、そして具体的で詳しい研ぎ方を紹介します。
切れ味の良い鑿を使って、ぜひDIYの幅を広げてみてください。
目次
鑿の刃の理想とは
鑿の刃研ぎを詳しく説明する前に、鑿刃研ぎのゴールをはっきりさせましょう。
重要なポイントは三つ

鑿の刃の理想の形
よく切れる鑿は上の図のような状態になっています。
重要なポイントは三つあります。
- 刃裏(はうら)が平面である
- 鎬面(しのぎめん)が平面である
- 刃裏と鎬面の間の角度が30度程度である
逆に、切れない鑿は上記のポイントのどれかが(多くの場合は三つとも)崩れています。鑿を研ぐということは、上の三つを実現すればいいということです。
言葉で言えばとても単純ですが、まぁこれが至難の業なわけです。
刃裏と鎬面を平面にする
鑿を研ぐには砥石(といし)を使います。砥石で鑿を研げば切れる刃がつく・・と思いがちですが、実はそこに大きな落とし穴が待っています。


先程の三つのポイントを思い出してください。刃裏と鎬面が平面であることが重要でした。『砥石で研いで刃を付ける』と考えていると、ついつい刃先だけを研いでしまいがちです。その結果、刃裏も鎬面も平面が崩れ、刃の角度は30度からずれて切れなくなってしまいます。
つまり砥石は刃先を研ぐものではなく、刃を平面にするものと考えた方がよいのです。
さて、砥石で刃を平面にするとなると、必然的に砥石が平面であるかどうかが重要になってきます。砥石が丸まっていたり歪んでいては、鑿を研いで平面になるはずがありませんよね。
そこで必要になるのが『面直し(つらなおし)』という作業です。面直しについてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、合わせて読んでみてください。
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砥石の面直しに最適な方法と注意点について
砥石の面直しは刃物の研ぎをするときに非常に重要です。正確な平面を持つ砥石を手に入れるための方法について、お勧めの方法をご紹介します。
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鑿の刃の角度を30度にする

鑿の刃の角度は30度が最適
刃裏と鎬面の間の角度は約30度が良いとされています。
刃の角度はプロトラクターや刃物角度定規で確認しましょう。
刃の角度を小さくすれば刃は鋭く欠けやすくなり、角度を大きくすれば刃は欠けにくいものの切れ味が落ちます。
というわけで、おおむね30度程度がバランスが良いということです。私も30度で刃を研いでいますが何も不都合はないので、まずは30度で調整しましょう。
次は研ぎに使う砥石について詳しく説明していきます。
砥石について

鑿の研ぎに使う砥石
鑿の研ぎ方を説明する前に、研ぎのおおまかな流れと砥石について簡単に説明します。
鑿に限らず、刃物の研ぎは大きく分けて三つの段階があります。
- 荒研ぎ(荒砥#120~#320)
- 中研ぎ(中砥#1000)
- 仕上げ研ぎ(砥石#8000~)
それぞれの段階に応じて適切な粒度の砥石を使う必要があります。砥石の粒度は番手(#)で表され、番手が大きいほど細かい砥石、すなわち仕上げ用の砥石になっていきます。
刃物を研ぐ際は、
- 荒い砥石で大まかに刃を削り
- 中くらいの砥石で面を整えて
- 細かい砥石で鋭い刃を付ける
というのが大まかな流れになります。それぞれの段階で使用する砥石については、こちらの記事に詳しくまとめましたので合わせて読んでみてください。
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砥石の種類とおすすめ ~研ぎのゴールとアプローチ方法、目的に合った砥石の選び方を詳しく解説
砥石の種類は膨大で、なにを基準に選べばよいのかがわからない方も多いと思います。この記事では、研ぎのゴールとアプローチ方法を詳しく説明しつつ、私が愛用している砥石を紹介していきます。
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鑿の研ぎ方
さて、ここからが鑿の研ぎ方の説明です。
今回は例としてこちらの鑿を研いでみます。中古の一寸鑿です。
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中古一寸鑿(研ぐ前・表)
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中古一寸鑿(研ぐ前・裏)
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中古一寸鑿(研ぐ前・鎬面)
中古で購入した鑿のため、見ての通り刃はボロボロです。鎬面は何度か研がれた形跡があり、三段刃になっています。

鑿の刃の角度は30度が理想(そうなってない
刃の角度は・・三段刃なのでよくわかりませんが、およそ34度以上になってますね。
刃先だけを研いでしまうと、刃の角度は30度以上になることが多いものです。もちろんこのままでは切れませんので、刃の角度を修正する必要があります。




ここから鑿の研ぎ方について詳しく説明していきますが、刃裏の研ぎ方(裏押し)は別記事で紹介していますので割愛します。
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研ぎガイドとは
初心者が鑿を研ぐ場合、フリーハンドで研ぐのは絶対に無理です。というか、私には無理でした。
じゃぁどうすればいいの?という話ですが、これを解決する方法があります。
刃物を研ぐための治具、いわゆる『研ぎガイド』を使う方法です。
研ぎガイドとは、鑿や鉋などの刃を研ぐときに補助的に使う道具(治具)のことです。研ぎガイドを使うことで、初心者でもかんたんに刃物を研ぐことができるようになります。



だから治具を使っても問題ないと思うんだよ


鑿研ぎはそんなに簡単じゃないな・・とは感じてるよ
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私が使っている研ぎガイド
私が使っている研ぎガイドは、西洋鉋の記事でも紹介した『Veritas マークII ホーニングガイド』です。
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Veritas ホーニングガイド
注意ポイント
Veritas マークII ホーニングガイドはAmazonでも販売されていますが、価格が高騰しているようです。
この道具の特徴は三つあります。
- 刃の角度を正確に設定することができる治具が付属している
- 刃を上下で挟み込む構造で、鑿の刃でもしっかり固定できる
- ローラーが幅広で、研ぎの際に手ブレしないので正確な刃付けができる
このホーニングガイドは本来は西洋鉋用の道具ですが、幅の狭い鑿でも使うことができます。
実際、私はこれで一分鑿を研いでいます。

ホーニングガイドで一分鑿を研ぐ

一分鑿も研ぐことができる
Veritas以外のメーカーでも研ぎガイドは販売されています。たとえば角利産業の『ホーム研ぎ器』もVeritasと同様の特徴があります。
上下で刃を挟む構造、幅の広いローラーを持つので安定して研ぐことができます。
国産の治具が良ければこちらがおすすめですが、角度を設定する治具は付属しないため自作する必要があります。



和鉋の刃を研ぐ専用ガイド『初弘グリンテックK2』



研ぎガイドに鑿をセット
ここから先は、Veritasのホーニングガイドを例に使い方を説明します。
まず、研ぎガイド本体に付属の角度設定治具を取り付けます。ガイド面にあるネジを動かして、角度が30度になるようにしておきます。

角度設定治具をセット
角度設定治具をセットしたら裏返し、鑿を研ぎガイドにセットします。
鑿を研ぎガイドのフェンス(横のガイド)にぴったりつけたまま、研ぎガイド本体のねじを締めて鑿を固定します。こうすることで鑿がまっすぐに固定されます。

鑿を研ぎガイドにセット
Veritasホーニングガイド本体のネジは両サイドに二つありますが、両方を交互に少しずつ締めるのがコツです。
片方だけ強く締めると、鑿が傾いてしまい正確な刃付けができなくなりますので注意してください。
鑿を固定したら、角度設定治具を外して準備完了です。

鑿を固定完了
それではいよいよ、砥石を使って鑿を研いでいきます!
荒研ぎの方法とポイント
黒幕#120による荒研ぎ

黒幕#120で荒研ぎ
上の写真では黒幕#120を使っていますが、もし持っているのであればダイヤモンド砥石を使ったほうが早くて簡単です。
砥石を置き、研ぎガイドにセットした鑿を砥石の上に置いたら、両手で研ぎガイドを持って前後に動かしてください。



研ぎガイドの持ち方は、もちやすい持ち方で大丈夫です。ただし左右で力の入れ方が変わると刃が傾いてしまうため左右同じ力で押さえることが大切です。
また、ただ抑えるだけでなく、刃先を砥石に当てるというイメージで動かすのがコツです。


研ぎガイドを動かすストローク(前後の距離)は、砥石の奥半分を目安にしてください。砥石の手前半分で研ぐことはできません(研ぎガイドが足を踏み外してしまうので)。
なので砥石の向こう半分を前後に動かしつつ、砥石の左右をバランスよく使うようにすれば砥石面の減りを最小限に抑えることができます。
しばらく研ぐと、砥石にあたる部分から研ぎ下ろされていることがわかるようになります。

砥石にあたる部分から研ぎ下ろされていく
このまま続ければ砥石にあたる部分が徐々に広くなり、最終的には鎬面がぴったり砥石につくようになります。
そうなるまで荒砥で頑張りましょう。目安としてはダイヤモンド砥石で5分程度、黒幕#120なら20分~30分程度というところです。
また、砥石は研ぐたびに凹みます。砥石の平面保持力(硬さ)にもよりますが、荒砥は平面が崩れやすいのでこまめに面直しをするようにしましょう。
砥石の半分を使って30秒ほど研いだら、砥石の前後を反転させて反対側で30秒研ぐ、それが終わったら面直しをする・・といったサイクルが基本です。
特に、次の砥石に移る前にはしっかりと平面に直した砥石で丁寧に研いで、鎬面をできる限り平面に近づけておくようにしましょう。

黒幕#120の荒研ぎ完了
荒砥の研ぎ終わりが近くなると、刃の先端の刃裏側に『刃返り(はがえり)』が出ます。
目に見えない程度に刃が反り返っている状態ですが、指で触るとはっきりとわかるはずです。
刃返りが刃の先端すべてで出ていれば、この段階の研ぎは完了です。
ちなみに荒砥で刃返りを取る(刃裏を研ぐ)のは絶対にNGです。刃返りを取りたくなっても、まだ我慢してください。




あっというまに終わるよ
なお、上の写真ではまだ刃欠けが残っていますが、この鑿はこれで良しとしています。
刃欠けを完全に修正する場合は刃を大きく削ることになるためもったいないのです。
いったん刃欠けがある状態で使い、次回の研ぎでまたすこし修正する・・というケチな道具を大切にする研ぎ方をしています。
黒幕#320による荒研ぎ
次に黒幕#320で同じように研ぎます。
ここでの目的は#120で付けた研ぎ傷をなめらかにすることです。

黒幕#320で研ぎ傷を減らす
先程の黒幕#120の荒研ぎは時間がかかりましたが、ここから先はそれほど時間がかかりません。
黒幕#120で研いだ際に鎬面を平面にしていれば、黒幕#320での研ぎは5分もあれば十分です。
刃返りが出たままになりますが、ここでも刃返りは取らないでください。


刃裏はすごく重要だからできる限り崩したくないんだ
中研ぎの方法とポイント
次は中研ぎです。黒幕#1000を使って鎬面を完全な平面にすることを目標にします。
研ぎ方はこれまでと同様ですが、研ぎの精度を上げるために研ぎガイドを動かすストロークは砥石の1/3~1/4にします。ストロークが短い方が鎬面の平面の精度は上がり、刃先は緻密になっていきます。
また、刃返りが大きく残っている場合は中砥で軽く取っておきましょう。
刃返りの取り方
刃返りを取る際は、まず砥石をしっかりと面直しして平面にしておきます。
その後で、鑿の刃裏を砥石の縁にピッタリと押し付けます。研ぎガイドはセットしたままで大丈夫です。(むしろ外すのがNG)

刃返りの取り方
刃裏を砥石に押し付けたまま、刃先が砥石にあたるイメージを持ちながら、ゆっくりと前後に動かします。
数回動かすだけで刃返りが取れるはずなので、指で触って確認してみてください。




だから『イメージ』程度でOK。これでも結構変わるもんだよ
なお、中砥では一回だけ刃返りを取れば十分です。刃返りを取った後、再度鎬面を研いでわずかな刃返りを出しておいてください。
仕上げ研ぎの方法とポイント
最後に、黒幕#8000を使って仕上げ研ぎをします。
もし持っているならば、#1000と#8000の間に#3000~#5000をはさむのが理想です。実は#1000から#8000に直接つなげると、#1000の傷が#8000で消しきれないことがあります。
最初はこれまで同様に研いで、鎬面の細かい傷を消して鏡面になるようにします。
その後、最後の仕上げ研ぎをします。ポイントは以下の通りです。
- ストロークを砥石の1/4~1/6くらいにして、短く細かく、ゆっくり研ぐ
- 刃返りが出たら刃裏を研いで刃返りを取る・・を繰り返すが、刃返りを出す量を次第に小さくしていく
- 最後は鎬面と刃裏をちょっとだけ研いで、刃返りが出ないようにして終わらせる
徐々に先端を鋭利にして仕上げるというイメージです。刃先を意識しますが、刃先だけを研がないように気を付けましょう。

黒幕#8000による仕上げ研ぎ
これで研ぎ上がりです!
研いだ後は研ぎガイドから鑿を外し、鑿と研ぎガイドをしっかりと水洗いしておきます。特に研ぎガイドの方は研ぎ汁がついていると錆の原因になるため注意してください。
しっかり乾燥させた後、鑿は椿油などを薄く引き、研ぎガイドはネジとローラー部分に機械油をさしておきましょう。
砥石に油が付くのでは・・と心配になるかもしれませんが、全く問題ありませんので安心してください。
なお、研ぎ上がり後に角度を測ってみると、ぴったり30度になっていることがわかります。

研ぎ上がり後の刃の角度は30度ぴったり!
こうして研ぎあげた鑿は、使っていくうちにまた切れ味が落ちてきます。
そうなったときは、また同じ研ぎガイドにセットして中砥(黒幕#1000)から研ぎなおしましょう。
この時は荒砥は必要ないので、研ぎ時間は10分~20分もあれば十分なはずです。しっかりと研ぎ角度を設定できる研ぎガイドならではのメリットです。
後日談
先程の鑿は、その後何度か研ぎなおしたおかげで刃欠けが完全になくなりました。

完全復活した一寸鑿
ここまで研ぐと怖いものはありません。大抵の木材をサクサクと削ることができます。表面加工もホゾ加工も思いのままです。
このように、研ぎガイドを使えば誰でも同じように鑿を研ぐことができます。そしてこの方法は幅広の鑿でも、細い鑿でも応用可能です。
ぜひ研ぎガイドを使って、さまざまな鑿の研ぎにチャレンジしてみてください。
なお、砥石についての詳しい説明はこちらの記事で紹介しています。もしまだ読まれていないのであれば、ぜひ読んでみてください。
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また、研ぎの際にとても役立つ『研ぎ台(砥石台)』をこちらの記事で紹介しています。砥石がグラつくのが気になる方は読んでみてください。
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それでは、またお会いしましょう!