さくや(@sakuyakonoha77)です。
これまで3回にわたってベンチバイスの記事を連載してきましたが、いよいよ最終回となりました。
ベンチバイスに当て木を取り付けて、テーブルにベンチドッグを埋め込めば、ベンチバイスの取り付けとしては完了です。
それではさっそく、詳細についてご紹介していきます!
[toc]
ベンチバイスの当て木の取り付け方
当て木の名称
今回は鋳鉄製のジョーを持つベンチバイスを使います。ジョーという名前については、ベンチバイス記事の第一回で説明していますので、まだ読んでいない方は読んでみてください。
木工用ベンチバイスとは ~木工バイスの選び方と購入方法について
続きを見る
鋳鉄製のジョーをもつベンチバイスなのでそのまま使うことも可能ですが、そのままでは木材を傷つけてしまうことがあるので当て木を取り付けるのが一般的です。
ベンチバイスのジョー(可動部側)に取り付ける当て木をフロントジョー、反対側の作業台側に取り付ける当て木をエプロンと呼ぶことにします。ベンチバイスを使うときはフロントジョーとエプロンの間に材料を挟んで固定することになります。
材料の用意
フロントジョーとエプロンのサイズ
フロントジョーの横幅は、ベンチバイスのジョーの横幅と同じでも良いのですが、ベンチバイスのジョーより大きくすることもできます。横幅を大きくすればより大きな材料を挟むことができるというのがメリットです。
しかし、ベンチバイスで押さえたときにフロントジョー自体が歪んだり傾いたりする可能性も出てきますので注意が必要です。横幅を大きくするのであれば厚みも大きくして、しっかりしたフロントジョーを作るようにします。
一方でエプロンの横幅は、フロントジョーの横幅と同じかそれ以上が必要です。作業台の前面いっぱいにエプロンがあっても構いません。というか、本当の木工ワークベンチは前面全てがエプロンになっています。
また当て木の高さは天板の高さと同じに合わせる必要がありますが、取り付け段階では天板の上に数ミリ突き出るくらいにしておきます。最後に鉋で削って面一(ツライチ)にするためです。
フロントジョーとエプロンの材料
次に材料の調達です。当て木の材料は固くて曲がりにくい材料が適しています。
ベンチバイスはフロントジョーとエプロンで木材を挟む道具です。ベンチバイスを閉じたときにフロントジョーとエプロンがぴったり合わさらないと材料をしっかり固定することができないので、当て木には平面が出ている材料を使う必要があります。
また、様々なものを挟むベンチバイスなので、当て木自体が凹んだり擦り減ったり曲がったりしないように固い材料を使うのが理想です。
固くて曲がりにくく、正確な平面が出ている(そしてホームセンターで手に入る)材料といえば、最適なのは集成材ですね!
パイン、ラバーウッド(ゴムの木)、アガチスなどの集成材は理想的な材料です。厚さが足りない場合は何枚かを貼り合わせればOKです。
今回はホームセンターの端材コーナーで手に入れた、厚さ20mmのラバーウッド集成材3枚で作ることにしました。このうち1枚をエプロンに、残り2枚は貼り合わせてフロントジョーにします。
フロントジョーにする予定の集成材2枚は、ボンドを塗ってベンチバイスで圧着します。
接着できたら、両端を少し切り落として揃えておきます。
これで材料が準備できました。それでは、まずエプロンの方から作っていきます。
作業台に当て木(エプロン)を取り付ける
エプロンの幅に合わせて作業台を切り欠き加工する
作業台にエプロンを取り付けるわけですが、我が家のテーブルは天板がすこし突き出る形になっているため、そのままではエプロンを取り付けることができません。
まずはテーブルを少し加工して、エプロンを取り付ける下地を準備する必要があります。
そこで、前回と同様に作業台に切り欠き位置の墨付けをして、ノコギリで切り込みを入れていきます。
ベンチバイスの取り付け方(2) ~市販のテーブルを本格ワークベンチに改造!?
続きを見る
ノコギリで切り込みを入れたら毛引きでベースラインの筋を付けて、そこを目指して鑿で加工していきます。
これでテーブル側の準備が整いました。
ベンチバイスに合わせてエプロンを切り欠き加工する
次にエプロンを作業台に取り付けるわけですが、作業台側にあるベンチバイスがでっぱっているのでそのままでは取り付けることができません。
そこで今度は、エプロンの木材の方をベンチバイスに合わせて切り欠き加工します。
ここで問題がひとつ出てきます。集成材をどうやって切り欠けばよいのか。
ワークベンチを自作するような本格的な木工家であれば、ここはルーター(電動工具)を使うのが定石です。
しかし我が家は賃貸住宅です。回転工具の音はご法度です。ましてやここはリビングルームです。食事する部屋を粉塵だらけにするわけにはいきません。
というわけで、私たちが使える道具は限られています。ノコギリと鑿でなんとかしましょう!
まずは材料をノコギリで縦に切り刻みます。
ノコギリの刃に取り付けている緑色のパーツは、MDFで作り両面テープで貼りつけた深さストッパーです。
刃先から一定の距離になるようにストッパーを取り付けることで、必要以上に切り込むのを防ぐことができます。
ノコギリの左側にあるジグは『ノコギリ用直角治具』で、マグネットにのこぎりの刃を張り付けて動かすだけで直角に切ることができるというものです。こちらの記事で詳しく紹介しています。
ノコギリで木材を直角に切る方法 ~高精度なノコギリガイドの作り方
続きを見る
ここではだいたい同じ幅で切り込んでいますが、この幅は細い方が後が楽です。とはいっても細いと切り込む回数が増えて疲れてしまうので、3~5mm程度が目安になります。
切り込みを入れ終わったら欠き取るわけですが、ここではインテリアバールを使いました。
ノコギリの溝にこのような道具を差し込むと、切り込んだ木材をかんたんにパキパキ折ることができます。ここではインテリアバールを使いましたが、先が薄くて平らで強度のあるもの(スクレーパーなど)でも構いません。
この調子でパキパキ折っていきます。
すべてを折り終わると、このようになります。
この方法では一部が残ってしまいますが、ここまでくればあとは鑿で少し削るだけできれいに仕上げることができます。
今回削った切り欠きの底は、作業台側のベンチバイスに接する部分です。ここを薄くしすぎてしまうと寸法が合わなくなります。ここは表から見えない部分になりますので、おおざっぱに平らになれば良しとします。
作成したエプロンをベンチバイスに取り付けるとこのようになります。
上から見ると作業台側のベンチバイスが見えます。このままでは使いにくいので、穴の部分はてきとうな木材(写真上の端材)で埋めておきます。
特に問題なければエプロンをこのまま固定します。エプロンをはめこんだ状態でベンチバイスを閉じ、ベンチバイスの表に空いている穴からドリルを差し込んで下穴を空けます。
写真ではわかりませんが、作業台側のベンチバイスも同じ位置に穴が開いているので、ドリルを深く差し込んでも問題ありません。
下穴を空けたらベンチバイスを開き、エプロン(作業台側の当て木)の下穴の位置を彫刻刀で皿状に掘って、ビスの頭が沈み込むようにします。
皿取り加工が終わったら、ビスを打ち込んでエプロンをしっかり固定します。
上の写真に写っている二本のビスは、裏面にある積層材まで打ち込んで固定しています。エプロンの横幅が大きい場合は、この二本だけでなく周囲もビスを打って固定する必要があります。
なお、ここではベンチバイスを広げてその間に電動ドリルを差し込んでビスを打つことになります。しかし小型のベンチバイスだと最大まで広げても電動ドリルが入らないことがあるため注意してください。
そういう場合は、ドリルの回転方向を90度変えるようなオプションパーツを使う必要があります。
これでエプロンの取り付けが終わりました。エプロンの上端は天板より少し高くなっていますので、そこは最後に鉋で削って仕上げることになります。
ベンチバイスのジョーに当て木(フロントジョー)を取り付ける
作業台側の当て木の取り付けが終わったので、次はフロントジョーです。二枚張り合わせて厚みを持たせた、しっかりした木材で作っていきます。
まずベンチバイスのジョーをはめ込むために切り欠きをします。切り欠きの方法はエプロンの時と同じです。
切り欠いたら好みに合わせて整形します。整形しなくても全く問題ありません。
今回はフロントジョーの角を丸く加工することにしました。コップの底を利用して円く墨付けして、ノコギリでおおざっぱに切り落とします。
そのあとは鉋とサンドペーパーで仕上げます。
上の写真では既に二つの下穴が開いていますが、これはエプロンと同様にフロントジョーをベンチバイスに挟んで、その状態で表からドリルで下穴を空けています。
下穴を空けたら、ベンチバイスに挟んだ状態でビス(トラスネジ等)を打ち込みます。
これでフロントジョーの取付ができました。最後に天板の上に突き出ているエプロンとフロントジョーを、鉋で削って天板と面一にします。
あとは好みで塗装して完成です。ただしこういった道具は、あまり塗装(着色)しないのがお勧めです。
使っているうちに色が変わることを期待して、私はクルミ油で拭き上げる程度にしておきました。
ベンチドッグの取り付け方
ベンチドッグとは
ベンチドッグとは、ベンチバイスとセットで使うためにテーブルに埋め込む丸棒(もしくは角棒)のことを指します。ベンチドッグを埋め込む穴の方はドッグホールと呼びます。
ベンチドッグは主に木製の物と金属(真鍮)製の物があります。
木製ベンチドッグ
ベンチドッグは簡単に自作することができます。自作する場合はドッグホールもベンチドッグも四角形にすると簡単です。
ベンチドッグの自作は、安価な材料で作成できるのがメリットです。また、木製のベンチドッグは材料を傷つける心配もありません。
しかしその一方で、木製のベンチドッグは使っているうちにすり減って緩くなってしまうのがデメリットです。もっとも、その場合はまた作りなおせばよいだけです。
真鍮製ベンチドッグ
真鍮製のベンチドッグは木製ベンチドッグの様に摩耗する心配がありません。おそらく何十年でも使えるのではないかと思います。
しかし木製の物とは逆に、それなりに高価であること(ひとつ千円前後)と、力をかけすぎると材料に傷をつけてしまうことがデメリットです。
今回使用するベンチドッグ
私はベンチバイスとセットで、Veritasの真鍮製ベンチドッグを購入しました。
購入については過去の記事で詳しく説明していますので、まだ読んでいない方はよんでみてください。
木工用ベンチバイスとは ~木工バイスの選び方と購入方法について
続きを見る
今回購入した商品は『ベンチパップ』といいます。Pupsというのは子犬なので、つまり小型のベンチドッグです。
小型とはいってもある程度の長さがあります。これを天板に埋め込むためのドッグホールを空ける必要があるのですが、市販のテーブルでは天板の厚みが足りません。
そこでベンチバイス取り付けの時と同様に、天板の厚みを嵩増しするための木材を取り付けます。
ドッグホール用に天板の厚みを増やす方法
ベンチバイス取り付けの際の積層材を作ったときは手間がかかりましたが、今回はとても簡単で、天板の裏に2x4材を取り付けるだけです。
まず2x4材にドリルで半分くらいまで穴を空け、そこにビスを軽く打ち込んで立てておきます。
この2x4材の長さは、テーブルの裏の取り付け位置に合わせてカットしてあります。この部品をそのままテーブル裏面に取り付けます。
これでテーブル天板の厚みを確保できました。
次にここにドッグホールを空けますが、穴あけ作業は少し注意が必要です。
ドッグホールの加工方法
今回使用するのは海外製のベンチドッグです。そのためベンチドッグの直径は3/4インチ、つまりインチ規格となっています。穴あけの際にもインチ規格のドリルビットが必要になるはずです・・が。
困ったことに、3/4インチのドリルビットは国内ではまず手に入りません!
仕方ないので、3/4インチ(19.05mm)に近い19mmフォスナービットで代用することにしました。誤差は0.05mmなので無視できるレベルのはずです。
ためしに端材に19mmドリルビットで穴を空けてベンチドッグを挿し込んでみましたが、まったく問題ありませんでした。緩くもきつくもなく、ちょうどいい感じの穴を空けることができました。
この調子で、そのままテーブルの天板に直径19mmのドッグホールを空けました。穴あけ位置はベンチバイスのストッパーと向かい合う位置で、テーブルの中央に開けています。ドッグホールは何個あけてもよいので、15cm刻みで数か所開けるといったやり方もあります。
フォスナービットで穴を空ける際は、ベンチバイス取り付けの時と同様にドリルガイドを使いました。
シールの上からドリルで穴を空けただけ
この穴にベンチドッグを埋め込めば完了です!
ベンチドッグは、普段は作業台に押し込んで天板の上に突き出ないようにしておきます。使用するときは、天板の裏から指で押し上げて使います。
なお、ドッグホールが途中で曲がるとベンチドッグは入らなくなります。多少傾いても大丈夫なので、とにかくまっすぐに穴を空けるように注意しましょう。
メモ
ベンチドッグは四角がいいか丸が良いか・・という議論がありますが、同じようにドッグホールは貫通穴が良いか非貫通穴が良いか、という議論もあります。
ドッグホールが貫通穴だと、裏から指で押し出せるので使いやすいというメリットがある半面、ベンチドッグが入っていない穴があると木くずが床に落ちる・・という地味なデメリットがあります。
一方でドッグホールが非貫通だと木くずが落ちないメリットがありますが、木くずが穴にたまる(掃除が大変)、埋まったベンチドッグを引っ張り上げるのに苦労する、といったデメリットがあります。
特にこだわり無ければ、ドッグホールは貫通穴にしておくのが無難ですね。
おまけ:ハンドルの音鳴り防止にゴムリング
私が購入したLee Valley製のベンチバイスはハンドルが金属でできていました。これを回したとき、ハンドルが落ちると金具同士がぶつかって『ガチャン』という音がします。
道具の音なので気にしなければいいだけなのですが、ちょっと工夫すれば音鳴りを押さえることができます。
使うのは、コレです。
本来は配管用の穴にはめるグロメットという部品ですが、この材質と形がベンチバイスのハンドルの音鳴り防止に最適なのです。
このように取り付けると、グロメットのゴム溝がハンドルの衝撃を吸収してくれるんです。なんてすばらしい!
以上、小ネタでした。
まとめ
全4回にわたって連載してきたベンチバイス記事、いかがだったでしょうか。
日本のDIYではベンチバイスが使われることは稀で、ベンチバイスというものの存在すら知らない方も多いと思います。
しかしDIYの本場、イギリスやアメリカではベンチバイスはとてもメジャーで、メーカーも商品の種類も豊富です。より取りみどりのラインナップから、好みのベンチバイスを選ぶという楽しみ方ができるのは羨ましいなぁと思う限りです。
今回私は輸入でベンチバイスを手に入れましたが、国内のメーカーからベンチバイスを手に入れることも可能です。本格的に木工をやってみたいという方はベンチバイスの導入を考えてみてはいかがでしょうか。
確実に言えるのは、ベンチバイスを一度使ったら
『ベンチバイス無しの木工なんて考えられない。いままでどうしてたんだっけ・・?』
と感じるだろうこと間違いなしです。それくらいベンチバイスは便利で頼もしく、木工には欠かせない道具です。
もしベンチバイスに興味があるけど不安がある、わからないことがある・・などありましたら、遠慮なくコメント欄にてご連絡ください。
今回の記事が、ベンチバイス導入を考える方のご参考になれば幸いです。