さくや(@sakuyakonoha77)です。
DIYや木工に慣れてくると、誰もが『溝堀り』という壁にぶつかります。
たとえばこんな時です。
- 箱の底板を溝で固定したい
- 額縁の裏板を、段欠きして落とし込みたい
- 扉の鏡板を木端に掘った溝にはめ込みたい
こういう場合、通常であれば道具は電動工具一択です。トリマー、ルーター、テーブルソーなど、どのような機械を使っても加工可能です。
しかし私たちDIYerはそんなものは持ってません。たとえ持っていたとしても、騒音と粉塵が出るのは嫌です。危ないのもイヤです。
私たちは、ただ静かに木工を楽しみたいだけなんです。
そんな私たちは、溝堀りを諦めるしかないのでしょうか・・?
そんな悩めるリビング木工家のための決戦兵器・・ではなく、お勧めの道具があります。
西洋鉋のひとつ、プラウプレーンです。
この記事では、正確な溝を掘るための手道具、プラウプレーンについて紹介します。
プラウプレーンとは
プラウプレーン(Plow plane/Plough plane)とは西洋鉋の一種で、いわゆる溝鉋(みぞかんな)のことです。
プラウとは
『プラウ』は、アメリカ英語ではPlow、イギリス英語ではPloughと表記します。どちらも鋤(すき)という意味です。プレーンは『鉋』という意味なので、日本語に直訳すると『鋤鉋』ですね。
プラウプレーンは通常の鉋と比べると複雑な構造をしていて、日本の機械作里鉋(きかいじゃくりかんな)に近い仕組みを持っています。
機械作里鉋は、トリマーやルーターが登場する以前に溝堀り用として使われていた道具です。一つの機械作里鉋には三本の刃がついていて、この三本の刃の調整が非常に難しいために、今となっては作る人も使う人もほとんどいないのではないかと思われます。
プラウプレーンは機械作里鉋と似たような道具ではあるものの、機械作里鉋よりはるかに扱いやすいのが特徴です。
鋳鉄製で歪むことの無い本体、さまざまな加工に対応できる交換可能な刃、そして正確な位置に加工するためのフェンスを備えたプラウプレーンは、手道具としての鉋の最終進化形ではないかとさえ思います。
非常に高性能なのに、初心者でも扱いやすい。誰でもすぐに結果を出すことができる道具、それがプラウプレーンです。
それでは、プラウプレーンの特徴を一つ一つ見ていきます。
プラウプレーンの特徴
フラットで交換可能なブレード
プラウプレーンの特徴として最も重要なのが、フラットで交換可能な刃です。日本の機械作里鉋の刃と比べてみてください。
日本の機械作里鉋の刃は、なんとも形容しがたい形をしています。先が細くなるテーパー型なのはよいとしても、断面が台形であったり平行四辺形であったり、ねじれがあったりで歪みがとても大きいのです。もちろん、これを研ぐのは至難の業です。
一方でプラウプレーンは平たくてテーパーの無い長方形、ホーニングガイド(研ぎガイド)で研ぐのに適した形をしています。
そして上を見てもわかるとおり、プラウプレーンの刃は複数あるのが特徴です。
実は、日本の機械作里鉋は刃を交換することができません。刃に合わせて台が彫り込まれているため、その台に他の刃を差し込むことができないのです。4mm幅を掘るのであれば4mm専用の機械作里鉋、6mm幅を掘るのであれば6mm専用の機械作里鉋が必要です。
それに対して、プラウプレーンは刃を交換することを前提に作られています。刃の種類も多く、様々な幅のストレート刃(通常の刃)のほかにもサネ加工や装飾的な加工用の刃も取り揃えられています。トリマーのように、一つの道具で様々な加工に対応できるということです。
加工位置を決めるためのフェンス
これは日本の機械作里鉋と同じですが、木端から一定の距離で溝を掘るためのフェンスを備えています。
これを使うことで、任意の位置に、正確に溝を掘ることができます。
また、このフェンスをうまく使うことで、木端に段欠きをしたり、少しずつフェンスを動かしながら削って幅広い溝を掘ったり・・といったことが可能になります。
一方で、プラウプレーンはフェンスに頼る道具なので、フェンスが届かない位置(板の中央など)に溝を掘るのは苦手です。こういう場合はルータープレーン(別記事で紹介予定)の方が有利になります。
溝の深さを一定にするための深さストッパー
プラウプレーンは溝の深さを一定にするための深さストッパーを備えています。
これがあるおかげで、溝の深さを気にしながら掘る必要がありません。一定以上の深さを掘ることができないようになっているので、安心して作業に集中することができます。
すべての刃物は鑿(のみ)の延長と考えると、ドリルビットは捻じれた鑿、台鉋は台に収まった鑿と言えますが、プラウプレーンは全ての機能を盛り込んだ最も高機能な鑿と考えることができます。
同じ発想で作られた日本の機械作里鉋は、刃の歪みを木製の台で吸収することで道具としていました。しかし肝心の調整を使用者に委ねてしまったために、非常に扱いにくい道具になってしまっています。
一方で、西洋で現在用いられている鋳鉄製のプラウプレーンは、誰でも使えること、そして調整が不要であることを基本理念に作られた道具であると感じます。
この道具が登場したのは1800年代後半、Stanley 45 Combination Plane が原型と言われています。詳しいことは下記の記事などで読むことができます。(英語なので、苦手な方はGoogle先生に翻訳してもらって読んでください)
[sc_Linkcard url="https://www.instructables.com/Stanley-45-Combination-Plane/" ]
[sc_Linkcard url="http://www.supertool.com/StanleyBG/stan8.htm" ]
電動工具とプラウプレーンを比較
溝を掘りたいと思ったら、普通は電動工具を使うのが定石です。作業効率、加工の正確性、どれをとっても申し分ないはずです。
しかしリビングで木工をする私たちにとっては、電動工具はとても大きなデメリットを持っていることも確かです。
騒音、粉塵、安全性・・これらに着目して、電動工具とプラウプレーンのメリット・デメリットを考えてみます。
プラウプレーンのメリット
プラウプレーンは、音を出さない
一つ目のポイントは騒音です。
一度使ったことがあればわかりますが、電動工具は耐えがたいほどの大きな音が出ます。使っている本人が我慢できたとしても、近所に響いてしまうのは避けようがないので、集合住宅や住宅街で使用するのはためらわれます。
それに対してプラウプレーンは音を出しません。たとえ深夜に作業をしたとしても迷惑になることはないのです。
プラウプレーンは、粉塵を飛ばさない
二つ目のポイントは粉塵です。
電動の回転工具は、例外なく大量の木くずと粉塵を放出します。部屋の中で使えば、隅から隅まで木くずまみれになります。
プラウプレーンは鉋なので削りくずを出しますが、粉塵が舞い上がるほどではありません。スルスルと滑らかな木くずが出てくるだけなので、新聞の上にまとめれば後片付けはとても簡単です。
プラウプレーンは、とても安全
そしてなにより、プラウプレーンはとても安全です。どんなに控えめに言ったとしても、電動工具とは比べ物にならないほど安全だと断言できます。
もちろんプラウプレーンも刃物なので、刃先で手を切るくらいの危険性はあります。しかしそれはカッターや包丁と同じ話なので、気を付けて使えば怪我をすることはまずありません。
むしろプラウプレーンのような手道具は、使えば使うほど手に馴染んでくるものです。使い慣れてくれば、何よりも信頼できる相棒になってくれるはずです。
プラウプレーンのデメリット
プラウプレーンは、刃を研ぐ必要がある
鉋などの刃物のデメリットは、なんといっても刃を研ぐ手間が必要という点です。これはもう否定のしようがないのですが、それでも、プラウプレーンの場合は救済措置が用意されています。
前述の通り、プラウプレーンの刃はホーニングガイド(研ぎガイド)を使って簡単に研ぐことができます。
手順さえわかっていれば初めての初心者でも素晴らしい切れ味に研ぎあげることが可能で、慣れれば10分もかからず研ぎ直すことができるようになります。
ホーニングガイドを使った刃の研ぎ方についてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、興味ある方は読んでみてください。
西洋鉋は初心者にもおすすめ! ~購入方法、使い方、メンテナンス方法について
続きを見る
『たとえ10分でも、刃を研ぐのは面倒で嫌だ!』という方はどうしようもないので、電動工具を使うしかありません・・・が、もし刃を研ぐための10分を気にしないのであれば、プラウプレーンは一考の価値があるはずです。
プラウプレーンは、手道具としては高価
プラウプレーンは、残念ながらとても高価な道具です。私が使っているVeritas社製のプラウプレーンは3万円くらいします。※送料・関税別
ホームセンターで販売されている鉋であれば数千円、電動工具のトリマーも1万円あれば買えることを考えると、『手道具に3万円を支払うのはちょっと・・』と考えるのは当然のことです。
コストパフォーマンスについては意見が分かれるところかと思いますが、一つ考慮しても良いと思うのは、プラウプレーンは一生使える道具であるということです。
実際、100年前に作られたプラウプレーンは今でも使われています。鉄製の道具は歪むことが無く、すり減ることもないので、手入れさえしていればいつまでも使えるのです。
それに加えて、静かな道具であり、粉塵をまき散らさないこと・・これらを加味して、コストパフォーマンスを考えてみるとよいと思います。
プラウプレーンか、電動工具か
プラウプレーンと電動工具(トリマーなど)は完全に対極にあるものです。どちらが良いというものではなく、環境や目的によって選択すればよいと思います。
音や粉塵を気にする必要が無く、作業効率を優先とするのであれば電動工具を。
リビングで静かに、木の香りを楽しみながら木工をしたいのであればプラウプレーンを。
好きなほうを選んでよいと思います。
なにがなんでもプラウプレーンを推すということではなくて、重要なのは、私のようにリビングで木工をする方のためにプラウプレーンという選択肢があることだと思っています。
プラウプレーンの購入方法
プラウプレーンは、かつてはイギリスのRecord社やアメリカのStanley社の製品が主流でした。これらのメーカーは既に製造を終了してしまっているので、残念ですが新品を購入することは不可能です。e-bayなどで中古品が出回るのみになっています。
現在では、カナダのVeritas社のみがプラウプレーンの製造販売を行っています。私が使っている Right-Hand Small Plow Plane もそれで、Lee ValleyのWebサイトで購入することができます。
私がLee Valleyとのやりとりをした時の記録(プラウプレーンではなくベンチバイスを購入)はこちらの記事でまとめています。もし購入したい場合は参考にしてみてください。
木工用ベンチバイスとは ~木工バイスの選び方と購入方法について
続きを見る
実は、かつては国内でもVeritas社製プラウプレーンを販売する代理店がありました。
しかし2020年からのコロナ禍の影響でVeritas社の工場の生産量が激減したことで、日本への卸販売は中止されている状況です。そのため、国内代理店はどこを探しても在庫を切らしているようです。
プラウプレーンの使い方
プラウプレーンのセットアップ手順
プラウプレーンは部品が多いので、最初はどのように使えばよいのかとまどいます。
『このネジは何だろう・・』と考え込んでしまいますが、考えるよりも手を動かして実際に使ってみるのが一番です。
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1刃を挿し込んで固定
まずはプラウプレーンに刃を挿し込み、三つの真鍮ネジで固定します。
上の写真の中央下に見えている小さい真鍮ネジは、挿し込んだ刃が横にずれないように固定するものです。
その上にある大き目のネジは、刃を押さえつけて角度を固定するとともに、加工中に刃がブレないようにするためのものです。
右上にある一番大きなネジが、刃の出具合を調整するものです。これを回すことで刃を出したり引っ込めたりすることができます。
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2フェンスの位置を設定
刃を差し込んで固定したら、次にフェンスの位置を決めます。フェンスの位置によって、端から何mmの位置に溝が掘られるかが決まります。
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3ストッパーの位置を設定
そして最後に深さストッパーの位置を決めます。実際は最初に深さストッパーの位置を決めるよりも、溝を掘りながらちょうどいい位置でストッパーを固定するという使い方が多いような気がします。
プラウプレーンの動かし方
準備が終わったら、両手でプラウプレーンを持って加工します。
左手が重要
このときに重要なのは、フェンスを押さえる左手です。※右利きの場合です。左利きの方は反対に読み替えてください
フェンスが木材から離れると溝の位置がブレてしまいます。そのため、フェンスが木材から離れないように左手に意識を集中します。右手はただ押すだけで、進路を左手でコントロールするイメージです。
プラウプレーンと利き手
ちなみに、プラウプレーンは右利き用と左利き用があります。左利きの方も安心して購入することができますね。
先端から少しずつ削っていく
長い材料を加工する場合、手前から奥までを一気に加工しようとすると、刃が深く食い込みすぎたり、木目に流されて左右にブレてしまうことがあります。
そのため、まずは先端の方を少しだけ削り、削り始めの位置を少しずつ後ろにずらして削る距離を伸ばしていくようにすると安定します。
材料の固定も重要
プラウプレーンを使う上でもうひとつ重要なのは、材料をしっかりと固定することです。これが案外難しいので、作業台が無い方は苦労するかもしれません。
私はリビングルームのテーブルにベンチバイスを取り付けて使っています。これがあればどのような材料であっても固定が可能になります。詳しいことはこちらの記事で紹介しています。
木工用ベンチバイスとは ~木工バイスの選び方と購入方法について
続きを見る
ベンチバイスが無い場合は通常のクランプをうまく使うか、テーブルに当て木を付けてひっかけるか、両面テープで材料をテーブルに貼り付けるといった方法をとります。
薄く削る必要は無い
削り量はネジを回すことで調整します。刃がしっかりと研がれていれば、かなりの薄削りを目指すこともできます。
ただしプラウプレーンの場合、薄く削ろうと努力する必要はありません。なぜなら、プラウプレーンで削る部位は表から見えない場所になるからです。仕上がりの美しさや艶はどうでもいいわけです。
むしろ、ある程度厚めに削った方が切削回数が減るので、刃のもちが良いのではないかとすら思います。薄さにはこだわらず、ある程度の厚さでサクサク削りましょう。
使用後の手入れ
プラウプレーンは鉄製の道具なので、湿気や塩分に非常に弱く、さびやすいものです。そのため使用後はしっかりと手入れをする必要があります。
私の場合は以下の手順で手入れをしています。
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1すべてのネジを取り外して分解
小さなネジもすべて取り外して、新聞の上に並べておきます。
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2エアダスターで木くずを吹き飛ばす
木くずが付いている部品は、エアダスターで木くずを飛ばします。布で拭くよりも手早く、きれいに仕上がります。
木くずを取り払った部品も、先程のネジと一緒に新聞の上に並べます。
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3防錆スプレーを全体に吹き付ける
防錆スプレーを、新聞の上に並べた部品すべてに吹きかけます。裏面がある部品は裏返して吹きかけます。
特にプラウプレーンのように複雑な形の道具の場合、手で油を塗りこむのはとても面倒な作業になります。思い切って全体に油を吹きかけた方が楽です。
全体に吹きかけけたら、ペーパータオルや布でかるく拭き上げます。
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4防錆紙でくるんで箱に保管
部品を再度組み上げて、防錆紙で包んで箱にしまいます。
以上で終わりです。手を抜くと1日でも錆が出てくるので、気を付けましょう。
プラウプレーンのチューンナップ
プラウプレーンは購入した状態でそのままでも使えますが、動きを安定させるためのベース板を取り付けるとより使いやすくなります。
その方法は簡単です。まず平面の出ている適当な板を用意して、適当な形に切ります。
次にノコヤスリでガシガシ削って形を整えて、
サラタッピングネジなどでプラウプレーンに取り付ければ完成です!ネジが長いと板を貫通してしまうので、短いネジを使ってください。
このようにベース板を取り付けると何が良いかというと、木材の基準面に当てることのできる面積が増えるので、直進安定性が大幅に向上します。
見た目のアクセントにもなりますので、もしプラウプレーンを入手出来たらぜひ取り付けてみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。日本ではほとんど知られていないプラウプレーンですが、手工具で木工をしようと思うのなら素晴らしい可能性を秘めている道具です。
こういう道具もあると知ることで、木工の選択肢を増やしていただくことができれば幸いです。
残念ながら、今はコロナ禍の影響で海外の道具を手に入れるのが難しい状況です。もし国内で在庫を見つけることができればラッキーですね。海外からの輸入も意外なほど簡単なので、ぜひチャレンジしてみてください!