さくや(@sakuyakonoha77)です。
突然ですが『蟻継ぎ』(ありつぎ)をご存じでしょうか?
いわゆる木組みの技法のひとつで、非常に強度が高いうえに見た目も美しい組み方です。
職人芸、匠の技・・といった感じで紹介されることもある蟻継ぎは、難易度が高いことでもよく知られています。DIYをする方にとっては高嶺の花に思えるかもしれません。
しかし、初めてでも、経験や腕がなくても、ノコギリと治具(じぐ)があれば蟻継ぎを作ることは可能です!
実際に私がはじめて蟻継ぎで箱を作ったときの作品がこちらです。
今回の連載記事では、杉田豊久氏の著書『杉田式ノコギリ木工のすべて』を参考に、初心者向けの蟻継ぎの作り方をご紹介していきます。
まず一回目は、蟻継ぎの特徴と加工に必要な道具、墨付けまでの手順について詳しくご説明します。
蟻継ぎとは
蟻継ぎの特徴
蟻継ぎとは、片方の木材の端を逆三角形型に加工し、もう片方の材料に同じ形の溝を掘って差し込む木組みの手法です。差し込む部分がアリの頭に見えることから『蟻継ぎ』と呼ばれます。
しっかりした蟻継ぎだと、接着剤無しでも外すのが難しいくらいガッチリと組み合わさります。ちょっとでも接着剤を使えば、外すのはもはや不可能です。
しかも蟻継ぎは劣化することがありません。押しても叩いてもゆがむことはなく、時間が経ってゆるむこともありません。ビスなどの金具を使っていないのでサビることもありません。まさに理想の接合方法です。
蟻継ぎは英語でdovetail joint(ダブテール・ジョイント = 鳩のしっぽ型の接合)と呼ばれます。この記事では説明の都合上、日本語の名前と英語の名前の両方を使います。
テールボードとピンボード
蟻継ぎは二種類の部品で作られます。今後の説明のために、それぞれの部品の呼び方をまとめておきます。
逆三角形の凸部分を持つ板のことをテールボード(tail board)と呼び、それぞれの突起部をテール(tail)と呼びます。
一方、凹部分を持つ板のことをピンボード(pin board)、凹部分の溝のことをソケット(socket)、その両側にある突起をピン(pin)と呼びます。
テールボードのテールと、ピンボードのソケットがぴったり組み合わさることで、蟻継ぎが完成するわけです。
手加工 vs 機械加工
実は、蟻継ぎは電動工具による機械加工が可能です。ルーターやトリマーとテンプレートがあれば、短時間で完璧な蟻継ぎを作ることができます。
なので、最初に言っておきます。
手加工では、精度や生産性において、機械加工に絶対にかないません!
効率を重視するなら、最初から電動工具を使うべきです。(設備投資のコストはともかくとして)
そういうわけで、この記事ではDIYerの流儀で難題に挑戦していきます。
『ひたすら練習すべし』ではなく、道具と治具さえあれば誰でもできる蟻継ぎを目指していきます!
蟻継ぎで必要になる道具
蟻継ぎでは正確な加工がとても重要です。
ノコギリのカットが少しずれるだけで、テールとソケットがかみ合わなくなります。
うまくかみ合わないものを無理やりはめようとすると・・割れます。
木組みをするとき、一般的には木殺しという方法を使います。溝にはめ込む部分(ホゾ)を玄翁(げんのう)で叩いて少しつぶし、その状態で溝にはめ込み、つぶれた部分が元に戻ることでキツく組み合わさるというテクニックです。
しかし蟻組みの場合、木殺しという方法は使えません。テールの斜面を玄翁で叩いてつぶすことができないからです。だからこそ、蟻組みはノコギリのみで正確な寸法に加工する必要があります。
テールとソケットは、かみ合わなくても、逆にユルユルでも意味がありません。
ぴったりガッチリ組み合わせるためには、0.1㎜単位の精度で正確に木材をカットする必要があります。
これほどの正確な加工を実現するために、どうしても必要となる道具がいくつかありますので紹介します。
ノコギリ
言うまでもなく、ノコギリは木材を切るための道具です。
しかし、ただ切るだけでは不十分です。0.1mm単位で正確に切ることのできるノコギリである必要があります。
そこで精密な加工をするために、アサリ無しノコギリと呼ばれるものが必要です。
※↑アサリ無しノコギリはYahooショッピングのみ購入可能です!
(Amazonリンクが表示されますが、Amazonではα265アサリ無しの取り扱いはありません!)
ノコギリのアサリとは
通常のノコギリは刃の先端がわずかに広がっています。ノコギリが切ったときの溝幅を刃の厚さよりも広くすることで、ノコギリを動かす際の抵抗が少なくなるようにしているのです。
しかしこのわずかな広がりが、精密加工では致命傷になります。
0.数mmソケットが広くなるだけで、蟻継ぎはユルユルになってしまうからです。
また、この後でマグネットシート式のノコギリガイドを紹介しますが、アサリのあるノコギリを使うとマグネットシートが傷つくという問題もあります。
したがって、蟻継ぎ加工をするときはアサリの無いノコギリを使うことが必要不可欠です。
アサリ無しノコギリの入手方法
ホームセンターでも手に入りやすいアサリ無しノコギリとしては、ゼットソーが製造している『ライフソークラフト145』(いわゆるダボ切りノコ)や『パイプソーフラット225』があります。近所のホームセンターを探してみてください。
ちなみに私は、杉田豊久氏の書籍で使用されている『ゼットソーα265アサリ無しノコギリ』を使用しています。こちらは店頭では販売されておらず、通販でのみ購入可能です。
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毛引き
毛引き(けびき・けひき)は、木材の端から一定距離の位置に、正確で細い線を引くときに使用します。
今回の蟻継ぎ加工では、目視に頼ることはありません。目視ではアバウトすぎて、ノコギリ加工を0.1㎜単位でコントロールすることが不可能だからです。
そこで利用するのが、鋭利な刃物で付けた、細くて深さのある切り込み線です。この切り込み線をつけるために必要となるのが、毛引きという道具です。
毛引きは様々な種類がありますが、もし選べるのであれば刃を固定する方式に着目してください。
刃を固定する方式はネジ式がおすすめです。安い毛引きだとクサビ式のものが多いのですが、クサビは固定するときに刃がわずかに動いてしまい、さらに使っている最中にゆるんできてしまうため、正確な作業には向きません。
なお毛引きの刃は砥石で研ぐことができますが、砥石での研ぎに自信がない場合はスティックタイプのダイヤモンドヤスリで先端をとがらせるだけでも十分です。研ぎに自信がない方は試してみてください。
鑿
蟻継ぎのような加工をするときに、どうしても必要になるのが鑿(のみ)です。
鑿も様々な種類がありますが、初めて購入する場合はホームセンターの追入鑿(おいいれのみ)で問題ありません。
刃幅は作成するものの大きさによるものの、最初の一本としては二分(6mm)~四分(12mm)くらいが使いやすいと思います。あとは、必要に応じて一本ずつ買い足していけばOKです。
鑿は研げば切れ味が良くなります。初心者にとって鑿を研ぐのはハードルが高いものですが、研ぎガイドを使えば簡単に研ぐことができます。こちらの記事で詳しく紹介していますので、併せて読んでみてください。
初心者のための鑿(のみ)の研ぎ方 ~研ぎガイド、砥石、裏押しについて
続きを見る
砥石がなかったり、研ぎが苦手な場合は、替刃式の鑿を使うという方法もあります。これで研ぎのハードルがなくなると思えば、安いかもしれません。
各種治具
木材をノコギリで正確に加工して、蟻継ぎをぴったり組み合わせるのは簡単ではありません。初心者がいきなり挑んでも無理!と断言できます。
しかしそれを可能にするのが、様々な治具です。
治具とは、ノコギリなどの手道具をより効果的に使えるようにするための補助道具です。ガイドと言えばわかりやすいですね。
ジグは本来英語で、jigという単語が由来となっています。
jig (noun [ C ])
- a piece of equipment for holding a tool or piece of wood, etc. firmly in position while you work with it
https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/jig
ここで治具を紹介してもピンとこないと思いますので、以降の手順の中で、使い方を見ながら一つ一つ紹介していきます。
説明の都合上、話の途中で治具が登場してきますが、実際は事前に治具を用意してから蟻継ぎ加工を始めるようにしてください。
ここでは割愛しましたが、本来であれば必須道具の一つに鉋(かんな)を加えるべきです。蟻継ぎを美しく仕上げるためには欠かせない道具です。しかし、蟻継ぎを加工して組み上げるだけであれば、鉋はなくても大丈夫です。
蟻継ぎの作成手順
それでは、蟻継ぎの作成手順を紹介していきます。
蟻継ぎ加工のおおまかな流れ
蟻継ぎ加工の大まかな流れは以下の通りです。
- 材料を切り出し、テールボードとピンボードを決める
- テールボードに墨付けをする
- テールボードをノコギリと鑿で加工する
- テールボードのテールの形を、ピンボードに写し取る
- ピンボードをノコギリと鑿で加工する
- テールボードとピンボードを組み合わせる
今回は、私が2021年の年末に作成した『升』づくりを例に、テールボードの作り方を説明していきます。
1.材料を切り出し、テールボードとピンボードを決める
今回は『升』を作っていきますので、前後左右4枚の板と底板で箱を作っていきます。底板は最後に貼るだけなので、まずは4枚の側板を用意します。
升のような箱モノは、木目が一続きになると美しく見えます。そこで、可能であれば一枚の板から4つの部材を切り出すのがおすすめです。
4つの部材のうち、ひとつ飛ばしの2枚(上の写真ではC1とC3、もしくはC2とC4)を選びテールボードとします。残る二枚はピンボードになります。
2.テールボードに墨付けをする
テールボードを決めたら、テールボードに墨付けをしていきます。
墨付けといっても、すでに説明している通り、重要なのは鋭利な刃物で付けた、細くて深さのある切り込み線です。
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1毛引きに板の厚み+αを写し取る
毛引きの刃を、板の厚みの幅にセットします。ここでセットした幅は最後まで使い続けるので、絶対にずれないようにしっかりと固定してください。
最後に鉋で仕上げる場合は、ここで毛引きの刃を板の厚さプラスわずか(0.2~0.5mm、紙の厚さ一枚分程度)にセットします。最後に蟻継ぎを組んだ時、テールとピンがそれぞれわずかに飛び出るようにするためです。
その飛び出た部分を鉋で削ることで、完全に面一の美しい蟻継ぎを仕上げることができます。
テールとピンが飛び出るように作っていく場合、最後に組んだときのクランプのやり方も変わってきますので注意してください。
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2テールボード二枚に、毛引きで薄く筋をつける
テールボード2枚(今回の場合はC1とC3)の木口側に、毛引きで筋(すじ)を付けます。ここで付けたスジをベースラインと呼びます。
ここでは板の厚さを見えるようにすることが目的なので、筋の深さはごく浅くしてください。ここで深く傷をつけてしまうと、最後に塗装したときに派手に目立ちます。
なお、ここで付ける筋はテールボードの両端をぐるっと一周させます。木端面も忘れないようにしてください。
木口側にぐるっと一周筋をつけるとき、しっかりと筋をつけるか、ごく浅くするかも、ひとによって好みが異なるようです。
あるイギリス人の木工家は『私はテールボードにゲージライン(毛引きの筋)を残すようなやり方はしない。それはアメリカ人のやりかただ』と冗談交じりに語っていました。
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3テールボードの木口に、テールの幅で印をつける
テールボードを二枚重ねた状態でバイスに挟み(バイスがない場合は縦向きにクランプし)、鉛筆でテールの位置がわかるように印をつけます。
ここでは位置だけ決めればよいので、線の長さや垂直を気にする必要はありません。
テールの大きさは任意です。見た目に影響するので、お気に入りの数、大きさ、間隔で配置してみてください。
今回は幅47mmの板をテールボードにしたので、木口の両端から5mmの位置と、21mmの位置の計4か所に印をつけました。こうするとテールの幅は16㎜になります。
両端から一定の位置に印をつけるときは、上の写真のようなストッパー付き直尺を使うと便利です。もし持っていない方はぜひ使ってみてください。
ちなみに、私が使っているバイスは『木工用ベンチバイス』と呼ばれるもので、食卓に取り付けて使っています。蟻組みなどで木材を縦引きするときには最適な道具です。詳しくは下の記事で紹介していますので、興味のある方は是非読んでみてください。
木工用ベンチバイスとは ~木工バイスの選び方と購入方法について
続きを見る
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4印の位置に、カッターで筋をつける
ここからは蟻組みの仕上がりに影響する、精度の高い作業に入っていきます。一つ一つの作業が仕上がりに影響しますので、丁寧に進めてください。
カッターを使って、さきほどつけた印の位置に垂直な筋をつけます。ここの垂直は重要なので必ずスコヤを使ってください。細かい作業の場合は、小さいスコヤがあると便利です。
ここで使うカッターは一般的なカッターで問題ありません。(私は常に片刃カッターを使っていますが、両刃でも問題ありません)
しっかりと深い筋をつけたほうが後が楽なので、刃先をポキッと折って、切れ味の良い刃で作業するのがおすすめです。
最初はスコヤに沿わせて軽く浅い切れ込みを入れ、その後何回か繰り返し切り込むようにすることで、スコヤがずれる事故を防ぎつつ、深い筋をつけることができます。
また、ここで付けた筋が見えにくい場合は、カッターの筋を鉛筆でなぞっておいてもOKです。(その場合も、重要なのは筋であって墨線ではないので注意してください)
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5テールの形を墨付けする
テールの位置と大きさが決まったら、木材をバイス(クランプ)から外して、一枚ずつテールの形を墨付けしていきます。
テールの側面の傾きは任意ですが、極端な角度にすると組んだ時の強度が下がる場合があります。特に深く考えないのであれば1:6という角度(約80度)にしておくと無難です。
墨付けの際、同じ傾きの線をたくさん引くことになるので、簡単な治具を作ると便利です。
こちらは『杉田式ノコギリ木工のすべて』(杉田豊久著)のP.103で紹介されているダブテールマーカーという治具です。
100均で売っているMDF板に、底辺2㎝、高さ6㎝の二等辺三角形の板を張り付けたものです。こうすることで、二等辺三角形のそれぞれの長辺が1:6(約80度)の傾きになります。
この板を裏返して木材の木口に当てることで、1:6(約80度)の傾きの線を引く定規にすることができます。
ダブテールマーカーがない場合は、自由スコヤを好みの角度に設定して代用しても構いません。
テールの形が決まったら、切り落とす部分に×、残す部分に〇をつけて区別しやすくしておきます。
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6ベースラインのうち、切り落とす部分に深めの筋をつける
テールの形が決まって〇×を付けたら、ここであらためて毛引きを使ってベースラインの切り落とす部分に深い筋を付けます。木端面も切り落とすことになるので、そちらも忘れずに深い筋をつけてください。
これで、テールの墨付け(筋付け)が完了です。
今回の記事は、ここまでです。
ここまで読んだ方であれば、これをどうやって正確に0.1㎜単位の精度でノコギリ加工するのかが気になるはず。次回の記事では、いよいよノコギリと治具を駆使して精密加工する方法についてご紹介します!
ノコギリと治具を使った蟻継ぎの作り方(2)
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