さくや(@sakuyakonoha77)です。
前回は、蟻継ぎの特徴と必要な道具、そして墨付けまでの手順をご紹介しました。
ノコギリと治具を使った蟻継ぎの作り方(1)
続きを見る
第二回目となる今回の記事では、ノコギリと治具を駆使して精密加工する方法についてご紹介します。
ノコギリを使うといっても、フリーハンドで加工しては誤差が出すぎて話になりません。
そこで前回に引き続き、杉田豊久氏の著書『杉田式ノコギリ木工のすべて』を参考に、治具を駆使したノコギリ木工流で攻めていきます。
ノコギリ加工用の治具について
正確なノコギリ加工には、治具が必要
前回の記事でテールボードに墨付けをしましたので、あとはその墨線に沿ってノコギリで斜めに切り込みを入れます・・・
・・と、ふつうの木工の本なら書いてあるかもしれませんが。
残念ですが、それは真似してはダメなんです。
『墨線に沿って』『ノコギリで斜めに』・・どちらもDIY初心者には至難の業。それができるのは、長年の修練を積んだ職人だけです。
前回の記事でもお話しした通り、DIY初心者が高い精度でノコギリを動かすには、治具の力が必要不可欠です。
ここからは、正確なノコギリ加工に必要となる三つの治具を紹介していきます。
それぞれ詳しく作り方を説明していきますので安心してください。
治具1:ピンガイド
まず最初に紹介するのは、ノコギリを正確に垂直に切り下ろすための治具、ピンガイドです。
ちょっと変わった名前ですが、これはピンボード(※前回作成したテールボードを挿し込む相手)を加工するときに重要な治具なので、ピンガイドと呼ばれています。『杉田式ノコギリ木工のすべて』(杉田豊久著)のP.98、P.103で紹介されているものです。
この治具は名前とは無関係に、様々な場面で手軽に使うことのできる、汎用性の高い垂直ガイドになります。とても便利なのでぜひ作ってみてください。
ピンガイドの作り方
ピンガイドの作り方は簡単です。先ほどの写真を見ればわかるとおり、厚みのあるベース板(上の写真では15mm MDFを使用)の木端面に、もう一枚の板を直角になるように接着し、その垂直面にマグネットシートを貼り付けただけです。
この治具は2枚の板が正確に直角になっていることが重要です。自分でカットすると誤差が出ることがあるので、材料を購入したときに最初からカットされている直角面を利用して作ると簡単です。
また作業時にピンガイドが滑らないように、ベース板の裏面にはサンドペーパー(150番程度)が貼ってあります。
ピンガイドの使い方
ピンガイドの使い方は、
- ノコギリで切りたい位置に合わせて、ピンガイドを置く
- マグネット部分にノコギリの刃を付ける(磁石によってくっつく)
- そのままノコギリを動かして切り下す
以上です。簡単ですね!
実際にピンガイドを作って試してもらうとわかりますが、おどろくほど正確に、垂直に切り下せるようになります。
ベース板やマグネットシート面の大きさによって使い勝手や精度が変わってきますので、使いやすい大きさで作ってみてください。
このように、ピンガイドはノコギリの動きを正確にコントロールするための治具ではありますが、ノコギリの切り込み位置を正確に決めることはできません。
ピンガイドだけでは精度の高い加工はできないので、より正確な加工を実現するために次の治具が必要になります。
治具2:刃付きノコ刃スペーサー
ピンガイドはとても役立つ治具ですが、そもそもピンガイドを置く位置がズレていたら意味がありません。
ピンガイドの位置を正確に決めるために必要になる治具が、『杉田式ノコギリ木工のすべて』(杉田豊久著)のP.98で紹介されている刃付きノコ刃スペーサーです。
刃付きノコ刃スペーサーは、ノコギリの切り込み位置を厳密にコントロールするために重要な治具です。
まずは作り方を詳しく紹介します。
刃付きノコ刃スペーサーの作り方
刃付きノコ刃スペーサーは、ゼットソーのパイプソーフラット225の替刃で作ります。
使い古しの替刃で構いませんが、無ければ新品で作ってもOKです。
まずパイプソーフラット225替刃を、金切りばさみを使って適当な長さ(10~15cm程度)の二枚に切り分けます。柄を取り付ける部分は不要なので切り落としてください。
今回使用した金切りばさみは粂田ギムネ製作所の『ハイキル』です。パイプソーフラット225の刃であれば簡単に切ることができます。
ノコギリの刃を裁断したら、ついでにノコギリの刃(ギザギザ部分)も金切りばさみでザクザク切り落としておくと安全です。(下の写真で、切り落とした部分が見えます)
ノコギリの刃を用意できたら、刃の先端(長方形の刃の短辺部分)を砥石やサンドペーパーで研いで片刃にします。
この刃で何かを切るというわけではないため、先端がとがっていればOKです。切れ味は必要ありません。丸刃になっても問題ないので、テーブルに敷いたサンドペーパーにこすりつけて削るだけでも十分です。
刃の先端に片刃を付けたら、次の通りに油性マジックで〇×印をつけます。
1枚目:刃付きノコ刃スペーサー(テープ有り)
1枚目は、研いだ面(鎬面があるほう)の刃先近くに養生テープを2枚重ね貼りして、テープの上から×印を書きます。裏面にはテープを張らずに〇印を書きます。
2枚目:刃付きノコ刃スペーサー(テープ無し)
2枚目は、研いだ面(鎬面があるほう)に×印を書きます。養生テープは不要です。裏面にもテープを張らずに〇印を書きます。
これで、刃付きノコ刃スペーサーの準備は完了です!
刃付きノコ刃スペーサーで、わざわざパイプソーフラット225の替刃を利用しているのには理由があります。
この替刃の刃の厚さが、杉田式ノコギリ木工の制式ノコギリ『ゼットソーα265アサリ無し』と同じ厚さ(0.65mm)であり、スペーサーとして利用するときに好都合だからです。(スペーサーとしての利用方法は、次回の記事で詳しく説明します)
理論的には、薄い板金やアクリル板で作成したり、片刃カッターの替刃で代用することも可能です。ただしその場合、ノコギリの刃との厚さの違いを考慮して調整が必要になる場面がありますので注意してください。
刃付きノコ刃スペーサーの使い方
この刃付きノコ刃スペーサーの使い方は独特です。
初めて聞くと手順がわかりにくく感じられますが、何回か繰り返すと体が覚えるので自然に使えるようになります。
step
1毛引き線に、刃付きノコ刃スペーサーの先端を挿し込む
まず、刃付きノコ刃スペーサーの先端にある刃を、木材につけてある筋(毛引き、カッターなどで切り込んだ線)に差し込みます。
毛引き線が見えにくくても、刃付きノコ刃スペーサー先端の刃でなでるように探せば簡単に見つけることができます。
筋があると、刃付きノコ刃スペーサーの先端はしっかりと刺さって動かなくなるはずです。もし刺さりにくい場合は、筋が浅いことが原因です。毛引きやカッターで筋をつけなおしてください。
また、このときに刃付きノコ刃スペーサーの向き(裏表)に注意してください。木材に書いてある〇×と、刃の裏表に書いてある〇×は必ず一致させるようにします。上の写真では、刃付きノコ刃スペーサーのシールに書いてある×印と、木材に書いてある×印が一致しています。
この段階では、刃の先端の位置は決まっているものの不安定でぐらぐらしています。図で表すと、下図の状態です。
step
2マグネット式ノコギリガイドを添えて、刃付きノコ刃スペーサーを安定させる
次に、ピンガイドを刃付きノコ刃スペーサーの左に添えて安定させます。
刃付きノコ刃スペーサーの先端が筋に差し込まれており、かつマグネット式治具がぴったりくっついている状態だと、刃付きノコ刃スペーサーも治具も安定して動かなくなります。これが、それぞれの治具が正しい位置に置かれた状態です。
step
3刃付きノコ刃スペーサーをノコギリに置き換えて、少し切り下ろす
治具の位置が動かないように左手で押さえたまま、刃付きノコ刃スペーサーを外します。
代わりにノコギリの刃をマグネットに張り付けて、そのまま軽く切り下ろします。
ここでノコギリを持つ手に力を入れてしまうと、左手で押さえている治具が動いて失敗することがあります。最初はあくまで軽く引いて、すこし切れ目を入れるだけと考えるのがコツです。
ノコギリの刃で少し切り込むと、刃付きノコ刃スペーサーを置いた時と同様に安定して動かなくなります。こうなれば一安心です。
step
4そのまま、軽い力でノコギリを動かして切りこむ
あとは、そのままノコギリを切り下ろすだけです。腕には力を入れず、マグネットのサポートを信じて、ノコギリの刃をマグネットから離さないことだけを考えて動かしてください。
切り進めていくと、マグネットシートとノコギリの刃の接する面積が小さくなってきますが、不安定になることはありません。ノコギリが掘った溝そのものが、ノコギリの刃のブレを抑えるガイドになるからです。
このように、ピンガイドと刃付きノコ刃スペーサーを使えば高い精度で垂直に切ることができます。
このテクニックは蟻継ぎに限らずどこでも役立ちますので、ぜひ様々な場面で使ってみてください!
それでは続いて三つ目の治具、正確にナナメめに切るための治具について紹介していきます。
注意
先ほども書きましたが、治具の位置を決めるときに刃付きノコ刃スペーサーの表裏を逆にしてしまうと、間違った位置で切り込むことになりますので注意してください。下の図のように、表裏が逆になると刃付きノコ刃スペーサーの刃の厚み分、切り込み位置がずれてしまいます。
治具3:テールガイド
前回墨付けをしたテールボードのテールは、側面が1:6(約80度)の角度で傾いていました。
この傾きの通りにノコギリで切れればよいのですが、それがなかなかに難しいものです。斜めに傾いているのでピンガイドも使えません。
というわけで、今回のテール加工では下の写真のような治具を使います。
これは『杉田式ノコギリ木工のすべて』(杉田豊久著)のP.103に記載されているテールガイドという治具をベースに、木工愛好家の矢頭潔さんが改良したものです。
テールガイドの構造
テールガイドの構造はこのようになっています。
3枚の木材をT字に貼り合わせ、側面に2枚の粘着式マグネットシートを貼っています。
全体的には長方形の治具なのですが、緑の部品と青の部品の段差部分が1:6の傾き(約80度)になっています。
テールガイドの木取り図
テールガイドの木取り図は下の通りです。
材料はMDF、もしくは集成材がおすすめです。50mm x 220mm x 25mm 程度の木材を用意して、三つの部品を切り出します。
2か所80.5度の角度は、プロトラクターを使ってカッターで筋をつけ、ピンガイドと刃付きノコ刃スペーサーを使えば正確に加工することができます。
テールガイドの作り方
緑の部品二つと、青の部品一つを切り出したら、サンドイッチにして接着剤で貼り合わせます。
接着剤が固まったら、先ほどの設計図を参考に、側面(2か所)に粘着式マグネットシート(100均で購入)を貼ればテールガイドの完成です。
テールガイドの使い方
さて、このテールガイドは下の写真のようにして使います。
ちょっとわかりにくいですが、テールボードを縦向きに固定して木口にテールガイドを乗せ、マグネットシートにノコギリを貼り付けて動かしているところです。
テールボードの木口にテールガイドの段差部分を乗せると、自然とマグネットシートが80.5度もしくは99.5度に傾くので、その傾斜のままにノコギリを動かせば墨線と全く同じ角度で切ることができるというわけです。
テールガイドを置く際には、ピンガイドと同様に刃付き鋸刃スペーサーを使って厳密に位置決めをします。実際の手順は、このあとの説明の中で紹介していきます。
これで、テールボードの加工に必要な3つの治具がすべてそろいました。
お待ちかねの蟻継ぎ加工を再開しましょう!
蟻継ぎの作成手順(前回の続き)
3.テールボードをノコギリと鑿で加工する
前回の続きで、蟻継ぎの加工を進めていきます。
step
1刃付きノコ刃スペーサーを使って、テールガイドの位置を決める
テールボードを2枚まとめて、バイス(もしくはクランプ)で縦向きに固定します。
このテールボードの木口には、カッターで切り込んだ切込みがあります。それを刃付きノコ刃スペーサーで見つけて挿し込み、テールガイドを横から添えて安定させます。
その際、刃付きノコ刃スペーサーの向きに注意してください。写真右側から順番に加工していきますので、まずは木材の×印と、刃付きノコ刃スペーサーの×印を合わせます。
テールガイドのマグネットシートは傾いていますので、刃付きノコ刃スペーサーも自然と傾くはずです。テールの墨線の傾きと、テールガイドのマグネットシートの傾きが合っていることを確認してください。(あっていない場合はテールガイドを反対向きにします)
このとき、下の図の状態になっています。赤い点線が、ノコギリの切り込み線になります。
step
2刃付きノコ刃スペーサーをノコギリに変えて、ベースラインまで切り込む
こうしてノコギリガイドの位置を決めたら、刃付きノコ刃スペーサーのかわりにノコギリの刃を当て、そのまま切り込みます。
ノコギリの刃がベースラインの少し手前まで来たところで、切るのを止めます。ベースラインを越えてしまわないよう注意してください。
木くずでベースラインが見にくい場合はエアブロアーを使って木くずを飛ばすと便利です。
この調子で、となりの墨線も切り込んでいきます。今度はテールガイドの傾きが逆になりますが、その場合はノコ刃スペーサーの向きも逆になります。
下の写真を見てください。
上の写真では、前回とテールガイドの向き(傾き)が逆になっています。テールの切り込み角度が逆なので、これでOKです。
刃付きノコ刃スペーサーのほうも向きが逆になっています。木材の〇印と刃付きノコ刃スペーサーの〇を一致させるのが正解なので、このようになります。図解すると下のようになります。
また、ここでは必ず刃付きノコ刃スペーサー(テープ無し)を使ってください。テープ有りを使うと、切り込み位置が少しずれてしまいます。
ここで切り込み位置がずれても、ピンガイドを現物合わせで作るため、実は問題ありません。テールの大きさが少し変わってしまうだけです。
どちらかというと刃付きノコ刃スペーサーの意味と使い方を理解することのほうが大切です。
この手順で、他のすべて墨線に切り込みを入れます。
テールボードの端に近くなるとテールガイドを置くことが難しくなるので、その場合はテールボードを反対向きにしてバイス(クランプ)で固定しなおすと作業しやすくなります。
すべて切り込みを入れると、このようになります。
step
3両側の不要部分を切り落とす
テール部分の切り込みが終わったら、両端の×印が書いてある部分をベースラインで切り落とします。
テールボードを横向きに固定し、木端面の毛引き筋に刃付きノコ刃スペーサー(テープ有無はどちらでもよい)を挿し込みます。切り落とす側(×が書かれている部分)に刃付きノコ刃スペーサーの×面が合わさるように注意してください。
この状態で、ピンガイドが動かないように押さえつつ、刃付きノコ刃スペーサーを外してノコギリの刃を貼り付けます。そのままノコギリを動かしてテールボード端の不要部分を切り落とします。
切れました!
ノコギリで切り落とすと、入隅(いりすみ;内側の角)に切り残しがある場合があります。これは後々で誤差につながってしまうので、切り残しは必ずカッターできれいに切り取ります。
この作業は一般的なカッターでは作業しにくいことがあります。カッターを引いたときに、刃が勝手に伸びてしまうことがあるからです。
こういう場合はネジで刃を固定するタイプのカッターが便利です。
step
4テールとテールの間をおおまかに切り落とす
次にテールとテールの間を切り落としていきます。
鑿(のみ)を使って少しずつ削っていくのが一般的ですが、その方法は時間がかかってしまうので、まずは糸鋸を使って大まかに切り落とします。
ちなみに、私が使っている糸鋸はこちらです。
ホームセンターでも販売されている普通の糸鋸ですが、刃の向きを変えられるのが便利です。
上の写真のように、『人』の字を書くように切り込むのがおすすめです。ノコギリの溝に糸鋸の刃を入れる方法もありますが、せっかくのテールを傷つけてしまうことがあるので避けたほうが無難です。
step
5鑿でベースラインまで削る
おおまかに不要部分を切り落としたら、あとは鑿でベースラインまで削ります。
削り量が多いときは一気に削ろうとせず、何回かに分けて削るのがコツです。また、片面からではなく表裏の両面から少しずつ削るようにするときれいに仕上がります。
最後の一刀は、ベースラインにノミの刃を差し込み、そのまま軽く叩いて刃を少し沈めます。
その後、鑿をわずかに内側に傾けて板厚の半分まで叩きます。反対側からも同様に叩いて、最終的に木口面がV字にくぼんだ状態にします。
こうすることで、蟻継ぎを組んだ時にが引っかかるようなことがなくなります。
鑿で加工した後も、削り残しがあればカッターなどを使ってきれいに掃除しておいてください。
step
6テールボードの完成!
これで、テールボードの完成です!
慣れないうちは手順を確認しながら進めるので時間がかかりますが、慣れてくると流れるように作業ができるようになるので、時間はかなり短縮できます。
ここで作成したテールボードを基準にして、今度はピンボードを作ることになります。それは次回で詳しく説明します。
ノコギリと治具を使った蟻継ぎの作り方(3)
続きを見る